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東京高等裁判所 昭和50年(ツ)16号 判決 1975年8月22日

上告人

鈴木市太郎

右訴訟代理人

米津進

ほか一名

被上告人

市川留吉

ほか二名

右被上告人ら三名訴訟代理人

石井嘉雄

主文

原判決を破棄する。

本件を千葉地方裁判所に差戻す。

理由

一別紙上告理由第一点について。

本件においては、上告人所有の五八三番の一の土地がその東側の一部において公道に面しているかどうかが、本訴、反訴を通じ重要な争点の一つとなつているところ、原判文上からも明らかなように、甲第八号証の公図は、五八三番の一の土地が東側の一部において公道に面しているように作図されているものであつて、上告人にとつては有利な証拠として重視すべきものといわなければならない。

ところで、原判決が右甲第八号証の公図の証拠価値を否定する理由として掲げるところは、第一に、四六四番の八、同番の一九、五八三番の一ないし三の各土地を合せて実測したものと認められる甲第二号証(測量図)によれば、右各土地の公道に面する土地部分の長さの合計が26.64メートル(原審における検証の結果によれば26.65メートル)であつて、これは昔から変更のないものであるところ、上告人が乙第二号証の一、二の公図写を証拠として主張するところによれば、右各土地の公道に面する土地部分の長さが36.36メートルあることになつて、右実測との差が上告人において五八三番の一の土地が公道に面する部分の長さとして主張する五間半とほぼ一致することと、第二に、甲第八号証の公図による五八三番の一の土地の大きさが甲第九号証の公図による四六四番八(分筆前)の土地のそれよりかなり大きくなつていることとである。

しかし、右第一の理由については、右実測との差が生ずる原因を五八三番の一の土地部分のみに求めなければならない合理的理由の説示に欠けるものがあるといわなければならず、第二の理由についても、甲第八号証の公図が五八三番の一の土地の大きさを表わす点の正確性に欠けるところがあるとしても、同地番の一部が公道に面するような位置形状にあることを表わす点についてまですべて正確性を否定し、その証拠価値を否定しなければならない理由説示として十分とはいえない。従つて、原審が甲第八号証を排斥する右判示には理由不備の違法があるものといわなければならない。

しかして、原判決は、右甲第八号証の証拠価値を否定したうえで、むしろ公図の合成図であると認められる甲第一一号証がほぼ本件各土地の実情に一致するものということができると判示しているところからみると、右合成図に証拠価値が認められ、これが原審の心証形成に影響を与えたものと解せざるをえないところ、甲第一一号証の公図の合成図なるものがどの公図によりどのように合成されたものであるかについて原判決が何ら判断を示していないことは所論指摘のとおりであり、その作成者が誰であるかも明らかにしていない。

記録にあたつて調べると、甲第一一号証は、甲第八号証の公図の中から五八三番の一の土地が公道に面しているように書かれている部分を削除し、これに甲第九号証の公図を接合し、あたかも四六四番の八の土地が五八三番の二の土地に接し、両地間に五八三番の一の一部が介在することがなく、従つてその一部が公道に面することがないように合成された図面であることが窺われるが、いかなる時点でいかなる者によつて作成された図面であるかを明らかにすることはできない。公図そのものである甲第八号証の証拠価値を否定して、この合成図をもつて五八三番の一の一部が公道に面しないことの心証形成の資料に供するためには、さらにその作成者および成立の経緯について審理すべきであつて、原判決には以上の点に審理不尽、理由不備の違法があるものといわなければならず、論旨(3)について判断するまでもなく、右の点を指摘する論旨は理由がある。

二同第二点について。

上告人は、原審において、反訴請求の原因として、その祖先以来本件各係争地を所有の意思をもつて平穏公然かつ善意無過失に占有してきたから、これを時効取得したと主張しているところ、原判決は、およそ時効により土地所有権を取得するには当該土地を時効期間中、所有権者を排除して継続的に占有していることをその要件の一つとするところ、原審が認定した事実によれば、上告人主張の占有は排他的になされてきたものとは認め難いから、その余の点を判断すみまでもなく上告人の反訴請求は失当であり棄却をまぬがれない旨判示している。

しかし、取得時効の要件としての自主占有は、共有関係を主張する者に対し単独所有権の時効取得を主張するような場合は格別として、所有権者を排除し排他的になされることは要しないものと解するのを相当とするから、原判決はこの点で民法第一六二条の解釈適用を誤るものであり、ひいては審理不尽、理由不備の違法があるといわなければならない。

よつて、その余の論旨について判断するまでもなく、右指摘の論点においては本件上告は理由があるところ、被上告人らの上告人に対する本訴請求には、本件各係争地の所有権に基づき地上建物、工作物の収去と当該土地の明渡を求める趣旨が含まれているから、上告人としては原審において、反訴請求の原因としてだけでなく、本訴請求に対する抗弁としても、本件各係争地の時効取得の主張をする意向であつたと解する余地があるから、よろしくその点の釈明を行つて審理をつくすべきであつたといわなければならず、従つて、原判決の右法律解釈適用の誤りは、上告人の反訴請求に関するばかりでなく、被上告人らの本訴請求に関する判断にも影響するところがあるといわなければならない。

三よつて、右論旨第一点に関する違法のみならず、同第二点に関する違法もあり、原判決をすべて破棄し、さらに審理判断をつくすべく、民事訴訟法第四〇七条第一項により本件を原審に差戻すこととして、主文のとおり判決する。

(畔上英治 安倍正三 岡垣学)

上告理由<省略>

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